年の初めに話すのは…
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


     2



戸外の空気は連日の厳寒に凍てつき、
冷ややかな風も容赦なく吹いているようだったが。
それを遮った室内は、
暖房のみならず、窓越しにさし入る陽もあってのこと、
ほこりと優しい暖かさに満ちており。

 「あ、ぱりんこ好きvv」
 「?」
 「サラダ風味のお煎餅ですよ♪」
 「ああ、これこれ久蔵。
  口の傍に団子の蜜がついておるぞ?」

女学園の保健室という、
微妙な場所にてのお茶会と相成った顔触れは。
そこの主である校医の榊せんせえと、
揃いのセーラー服姿も可憐で愛らしい、
こちらの女学園では知らぬ者がないとまでの人気者。
それぞれに初夏の花々を冠され、
そこから“三華様”とまで呼ばれていたりする、
ずんと個性的な二年生たちで。
委託とはいえ一応は職員としての義務感からか、
“早く帰りなさい”なぞという
厳格な素振りを示したもしたせんせえだったものの。
久蔵お嬢様を送って行くくせにという 底が割れては話にならぬ。
しぶしぶ“人心地つくまでだぞ”と了承しての、
他愛ないお喋りに付き合っていたところが、

 「あ、そうそう。
  あのキララ・ミクマリさん、
  今度CDデビューするそうですよ?」

 「え? ホント?」

年齢差もあれば日常身を置く場所も異なるのだから、
さすがに全部に通じているとも言えず。
とはいえ、それを言ったら
普通一般の少女らと
嗜好や関心が微妙にズレてる彼女らでもあるのに、と。

 「誰だ、そりゃ。」

芸能人の話とは珍しいこと、
だがだが、紅ばらさんまでが
“おおお”と意外そうな顔になっての通じておいでで。
何だなんだと感じたそのまま、ついつい訊き返せば、
その辺りが届いてのことかどうなのか、

 「ほら、菊千代のBFの小町くんのお姉さんですよ。」

菊千代?と細い眉をきゅうと寄せ、
怪訝そうなお顔となったのも一瞬のこと。
ああ…と せんせえが素早く思い出したのは、
まずは全国コンクールを前に盗まれた
ヴァイオリンを巡ってのすったもんだだったが、

 「…いや、それ以外でも聞き覚えがある名前だ。」

騒動自体へ直接参加はしなかった兵庫さんなので、
そちらと連動する想起は朧げなそれだったらしく。
だがだが、何でだろうか それだけじゃあない感触がと、
ますますのこと眉根を寄せての、考え込むこと数刻後。

  「…………………………………………あ。」

はっとお顔を上げたせんせえだったのへ、
思い出すのを中途で諦めてもよしと、
あくまでも彼の意思に任せてのこと、
そんな兵庫だったの、
黙して見守ってたお嬢さんたちだったのは、
無理から引っ張り出して思い出すのが
いいことかどうかは人それぞれな、
何とも微妙な記憶でもあるからで。

 「そうか、あの折に“お前ら”の身内にいた機械の侍か。」

 「ええ♪」
 「ぴんぽ〜んvv」
 「……。(頷)」

彼女ら彼らが“前世”と呼んでいる、
遠い世界で同じ刻を過ごしたがゆえの共通した記憶は、
今の今、
お互いに絆があってこそ思い出せるそれじゃああるけれど。
だったらならば、尚更に辛かろうこと、
人によっては悲しい結末へとつながってもいる“それ”だから。
相手にまだ思い出してない部分があるようだと気づいても、
無理から引き出すのはよろしくないと、
何とはなく知らん顔になって気遣うのが
彼らの間では暗黙のうちの了解ともなっており。
今の世代の菊千代は、
関西で…こちらのお嬢さんたちと同じく
何故だか女子高生となって転生していた変わり種。
しかも、草野さんチの七郎次お嬢様の遠縁だったと、
先年、久々の再会果たした瞬間まで思い出せなんだのだから、
そういうことも ままあるらしく。

 「ミクマリというのも、何とはなく覚えがあるぞ。」

確か…そうそう、
お前たちが肩入れした村の巫女ではなかったかと続けた兵庫へ、

 「おお、思い出せましたか。」

彼女は侍じゃあなかったのだ、
刀を合わせた間柄じゃあなかった顔触れなのにと。
それへは意外そうな顔を隠さなかったお嬢様がたへ、

 「まあな。」

何せ、彼のいた陣営でもあるアキンド側の、
のちの大ボスにあたる存在ともなった差配の息子のウキョウが、
彼女へ妙に執着したことが コトの始まりでもあったようなもの。
彼女との出会いがなくとも、
やはり新しい天主になった彼だったのかもしれないが。
そんな経緯に添うこととして、
カンナ村へ彼ら頼もしい侍が結集していたかどうか。
いやさ、アキンドらがこそりと手飼いにしていた野伏せりとの
無謀な合戦などという騒動がそもそも起きていたかどうか。
そういう意味合いから考えりゃ、
十分キーパーソンだっただろうに…という
強い印象が拭えぬ兵庫せんせえでもあるらしく。
そんなこんなを思った校医殿だとまでは、
当然のことながら気づかぬまま、

 「島田も驚くだろう。」
 「ですよねぇ。」

彼女らには別の感慨でもあるものか、
選りにも選って 無口な性の久蔵が、
まずはとそんな言いようをしたのが兵庫には意外。
え?と目を見張ったそのまま、

 「何だ、遺恨でもあるのか?」

ついのこととて こちらから訊けば、

 「というか…。」

さすがに細かい事情を語るのは苦手か、
何と言ったらいいものかという心情を描くよに、
チョコ菓子を指揮棒のようにして
宙でちょちょいと振った久蔵の向こうから、

 「あのおじさん、
  彼女から随分と想われていたようなのですよ。」

うふふとひなげしさんが微笑いつつ語ってくれて、

 「巫女というのは当時の世界でも神聖なお立場。
  人を想うまではよしとしても、
  それでお務めがおざなりになっては いけなかったのでしょうに。」

だっていうのにね、……(そうそう)と、
平八と久蔵とがお顔を見合わせ、

 「……。///////」

何故だか、七郎次だけはお口を噤んでいるばかり。
視線も落ち着かないままだし、
クッキーを頬張る所作もムキになっているようにしか見えぬ
そんな横顔に引っ掛かりつつも。
話の先をと聞いておれば、

 「最終決戦の直前に、
  巫女の務めも捨てる覚悟で告白しようとしかかったのへ。
  ワシはもう枯れておる、戻るを待つなとか言って、
  そりゃあきっぱりと振ってしまったんですよね。」

 「……。(頷、頷)」

同じ場に居合わせたのだろう、
平八の言いようへ、久蔵もまたうんうんと頷いており。

 「人誑しのエクソシスト。」
 「もしかしてエキスパートと言いたいんじゃあ?」

お約束のジャブ的やりとりが挟まってから、
深々と頷いていた久蔵がそのまま、

 「シチがいたから。」
 「な…。//////」

ぼそりと付け足したのへは、
さすがに知らん顔も出来なんだものか、
打って変わってガバッと顔を上げ、

 「ヤですよ、
  何を言い出しますか、久蔵殿っ。//////」

そんな素振りなんて一度も見せちゃいなかったでしょうにと、
完全否定をしかかる白百合さんの奮闘も空しく見えたのは。
ムキになっているとしか思えぬ、
日頃の彼女にはまずなかろう 焦りまくりの語調と、
白皙の頬が痛々しいほど真っ赤だったこと。
おっとりしつつもどこか鷹揚として見える、
そんな余裕があった草野画伯のご令嬢が、
単なる邪推発言へこうまで取り乱すなんて。
少なくとも榊せんせえには覚えがなくて。

 「でも、私もそれは思いましたよ?」
 「う…。///////」

寡黙な久蔵一人なら何とか言いくるめられても、
それへと両手を使えば、もう一人へは手が足らぬということか。
…判りにくいですかね。(苦笑)
どちらかといや純情さが勝るヲトメには、
真実・事実を無理から封じることへ強腰になれるような、
そこまでの図太さや雄々しさは、
まだまだ備わってはいなかったようで。

 「〜〜〜。////////」

もうもうもうと真っ赤になっての、
卓の上、菓子鉢にあけてあった○ッキーをむんずと掴むと、
そのまま暴れ喰いに走ってしまったところがまた、

 “シチ、かわいいvv”

口には出さねど、
いつもは庇われているお姉様が、
何とも愛らしい素振りなのを見て取ったのだろ。
久蔵がその胸中で何を思ったかは、それこそ兵庫には明白。
こやつにそうと思われてるようじゃあなと、
こちらは随分と遠慮しいしい、
やはり白百合さんの照れようを察しつつ、

 「それはそうと、
  お主らは先のことをどのくらい考えておるのだ?」

話の流れを変えて差し上げるのも親切かなと思ったか、
新しく淹れ直したハーブティーを片手に、
ヲトメらしい話題へ真っ向から水を差したところが
なかなかにチャレンジャー。
とはいえ、急なご指摘の内容への
お嬢さんたちの反射のほうも大したもので。

 「先って。」
 「将来のことですか?」

 「おうさ、
  四月からは三年生だろうが、進路の話も出ておろう。」

  ……それこそ白々しいでしょうかねぇ。(笑)

 「このシリーズでそんな話を持ち出しますか。」
 「兵庫さんて、案外無謀な人だったのね。」

一気に持ち直した白百合さんまでが、
何を突拍子もないことを言い出しますかと
呆れ半分なお顔になったのは、
ある意味 効果の出過ぎというところ。
とはいえ、

 「久蔵は経営の勉強をするというておったしな。」

そこは大人だ、そんな程度に物怖じなんてなさいません。
澄まし顔のままティーカップを持ち上げて、
しれっと言い返したせんせえであり。

 「え?」
 「ホントですか? それ。」

爆弾発言をしたお人より、
傍らにおいでの当事者ご本人へと
青いの榛色のという双眸二対で視線を向ければ、

 「…。(頷)」

こちらさんも平然としたもの、
こくりと頷き、否定はしなかった紅ばらさんで。
別に強要はされてないけれど、それでも両親の仕事を手伝いたいしと、

 「経済学部へ。」
 「じゃあ、学外受験ですね。」

女学園の大学部には、
文学部と教育学部の他には、
保育士や介護士、栄養士・調理士への勉強が出来る
家政学部しかないので、
経済や法律、はたまた理工学へと進みたければ
外部へ進学するしかなく。

 「そっかぁ。
  大学へは進学するけどそのまま持ち上がりかと思ってた。」

何たって揺るぎなき良家の子女だもの、
そうと運ぶのが自然なことだと思ってたと。
これは意外だと驚きながらも、
これは既製品じゃあない、八百萬屋謹製の、
とろとろやわらかな水まんじゅうプリンを小さめのサジで掬ったの、
どうぞとその小さめのお口へ進呈すれば、

 「……vv」

甘いぞ美味いぞと、
目許を細めて御機嫌そうなお顔をする久蔵であり。

 「そういうヘイさんも外部受験よね。」
 「まぁね。」

学園周辺の大学はもとより、
名のある工学部のあちこちから、
どうかお越しをという推薦状が
今から降るように届いているとかで。

 「アメリカへ戻るつもりはありませんが、
  だったら せっかく日本にいるんですもの、
  設備や何や条件の整ったところで、
  研究とか実験とか続けたいですしvv」

 「語尾のvvが凶悪だと感じたのは
  アタシの気のせいでしょうか?」
 「……。(頷、頷)」

あー、何ですよ久蔵殿まで…と、
単なるツッコミとそれへの応じとして、
かあいらしい“ぐう”を振り上げるひなげしさんへ、
キャッキャと無邪気にはしゃぐお嬢さんたちだが、

 “いやいやいやいや…。”

今でさえ
他でもない警察のデータベースへのハッキングだの何だのと、
ネット関係では魔法のような手腕を振るうおっかなさ。
そんなお嬢さんがますます腕を磨こうだなんて、
十分に脅威的なんじゃあなかろかとは、
兵庫さんだけが感じる懸念ではなかったはずで。
帰ったら警部補に伝えとかんとなぁと
その胸の奥にこそりと記しておれば、

 「で。シチさんは どうするんですか?」

ハーブティーを手に、
小さなチョコパイを摘まんでいた白百合さん。
ひなげしさんから訊かれて、

 「あ…えっとぉ。////////」

そこまでのはしゃぎっぷりが一転し、
先程 少々含羞んだのと似たような空気を
その身へとまとってしまい。

 「アタシは…あのね?
  すぐにでも、……………
お嫁に
  行きたいなぁとか思うのだけれど。」

2行目の後半は、
冗談抜きに蚊の鳴くようなか細い声だったのもヲトメならでは。
むしろ、よくぞそんな具体的な言いようをしたと、
その勇気へ“おおお”とあとの二人が感動したらしく、

 「応援しますよ、シチさん。」
 「…、…、…っ。(頷、頷、頷)」

さっきの揶揄とは話が違うと、
意気込みも強めにエールを送るお仲間二人だったものの、

 「でもね、まだ何も言ってないうちから勘兵衛様たら、」

  お主ほどの才ある存在が
  どのような世界も見ぬまま知らぬまま、
  社会に出ぬままというのは惜しい話だ

 「…って。」

夕暮れ間近な浜辺を歩きながらという
雰囲気たっぷりな中で、
そんなお話を持ち出すんですものと。
だからこそ余計に浮かれて忘れるとか
把握を誤るということもなかったこと、
恨めしいとうつむく白百合さんであり。

 「相変わらずに口が達者なお人ですよね。」
 「………。(全くだ)」

正論じゃああるけれど、
それってやっぱり
シチさんからの想い入れを判ってての
牽制以外の何物でもないじゃないですか…と、
平八が憤然とし。
こうなったら押しかけ女房…と、
やや乱暴な言いようを久蔵が構えて、

 「…っ☆」

兵庫せんせえが紅茶を噴きそうになったけれど、

 「大丈夫。
  だったらだったで手がない訳じゃあないもの。」

しょげるどころか、
きれいな白い手を ぐぐうと握りしめ、
ふっふっふと低く笑った金髪美貌の白百合様。
この数年後、
のちに女性幹部初の警視正へまで
あっと言う間に上り詰めるキャリアとして、
警視庁へと入庁する彼女であったこと、
某島田警部補がどっと後悔することとなろうとは、
まだ誰も知り得ぬお話だったりするのであった。





    〜どさくさ・どっとはらい〜 13.01.05.〜01.06.


  *なぁ〜んか取り留めないお話ですいません。
   入院中にやって来た“いい夫婦の日”だったのへ、
   書けない憤懣から走り書きだけでもとメモったのを
   整理しつつ書き下ろしてみました。

   勿論のこと、
   ヘイさんはゴロさんと、久蔵殿は兵庫さんと、
   そして、シチさんは勘兵衛様と
   無事に結婚致します予定なんですがvv
   勘兵衛様あたりは、
   結婚しても家へは戻らぬ激務は変わらず。
   それでは結婚した意味もなかろと、
   実家へ戻ってなさいなんて
   つや消しなことまで言い出されたシチさん、

   『判りました。』

   楚々と言うとおりにしたかと思いきや、

    1 職場復帰し、島田警部補の上司となって
      自分も現場へ突撃する困った捜査1係の係長と化す。

    2 実家へ戻って、平八や久蔵と連絡を取り合い、
      一般市民の立場のまんま、
      学生時代を彷彿とさせる活劇を繰り広げ、
      ますますと勘兵衛様の頭痛の種になる。

    3 良親様のバックアップを受けて………


   「…どれも大変ですよ、勘兵衛様。」
   「こうなったら、島田班の総力挙げて
    どんな難事件の最中であれ、
    2日に一度は奥方の元へ帰らせなければ。」
   「お前ら…。」


    うんうん平和よね、日本。(こらこら)


  *久蔵殿へは別口のあれこれを考えちゃったので、
   機会があったら書き下ろしますね。
   (兵庫せんせえ大変だねぇというお話ばっかですが…。)

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


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